いまごろ「廃墟」がどうの「軍艦島」がどうのといった内容をブログに書き散らすのも、まるで露骨な検索エンジン対策みたいで気が引けるのだが、たまたま目についたので購入してみた。「軍艦島 全景」オープロジェクト著、三才ブックス刊のことだ。
しかしまさか世界遺産の登録が本当に国から認められるなんて思っても見なかった。おそらくアピール度が弱いのであまり相手にはされなさそうな気がするが、日陰ものの廃墟マニアの動向に日が当たったような感じも同時にあり、どこか恥ずかしい感じもする。
肝心の書籍の方だが、もっと写真の比率が多いのかと思っていたのだが、実際には写真と同じぐらいに文字の比率も多く、それもかなり詳細に分け入って記述されているので非常に興味深い。寺院の存在や祭りの存在などは、おそらくマニアからすれば周知のことなのだろうが、僕としては初めて知ったことなので非常に興味深い本だった。唯一残念なのは本の判型が小さいことで、もっと倍ぐらいの大きさがあれば収録されている写真ももって映えてよかっただろうし、それならそれで値段が6,800円ぐらいでも買ったかもしれない。それを除けばかなり満足できる本である。
さて、「軍艦島」について個人的に気になっていたこととして、島民の性欲処理の問題がある。なにしろ炭坑島だけあって、体力仕事に従事する人間が大量に生活している訳だから、その手の設備がなければたぶん立ちゆかなかっただろうことはある程度想像がつくわけで、でも、これまではそれについて特に調べようともせず、ただ漠然と考えていただけなのだった。
しかしあまり期待もせずにこの本のページを繰っていて、その手のことに関する記述が載っているのを見て、めずらしく興奮してしまった。該当の記述は69ページのコラム記事。それによると実際にはやはり遊郭のようなものがちゃんと、それも数軒あったらしい。ただ、時代によっての変遷はあるようで、その点についてはやはり確たる証言がまだ得られていないようだった。ただ、そこに記述されている限りにおいては、それはやはり炭鉱会社の管理売春的なニュアンスが強いものだったようで、僕としてはやはり、海上の閉鎖された空間の上で独自の生命観とセックス観に基づいた社会が濃密に構築されているのではないかといった期待があっただけに、そういった意味では少々落胆してしまった。僕としては、例えば 宮本 常一の「忘れられた日本人」や 柏木ハルコの漫画「花園メリーゴーランド」などで描かれたような、閉鎖された状況で熟成された独特の性中心の文化の存在をちょっと期待していたのだが、それをうかがわせるようなところはどうも無さそうな感じである。やはり日本の、それも当時主流だった炭坑産業の中心地だけあって、それは中枢によって管理されたものにしかなり得なかったのだろうか。変な期待のような気もしないでもないのだが。
軍艦島はそのうち行ってみたいと思うが、どうもそれだけのことに日程を避ける余裕が今のところ無いことと、いまどき軍艦島でどうこう言うのも恥ずかしい感じもするので、さすがに躊躇してしまう。そのうち北海道に移住したら、ひとりで炭坑跡などを巡って、似たような知られざる遺跡を発見して一人で悦に入りたいところだが、さて、いつのことになるやら。