パラジャーノフを賛美しつつ、その後発売され購入していたプレミアム・エディションについて書くことをすっかり忘れていたので、こっそり書くことにする。
内容はリマスターされた本編DVD一枚に特典DVD二枚の計三枚、それにポストカード数枚。ポストカードは1枚物でも入っていたしはっきり言って余計なような気もするが、この手のセット物にはつきものだし別に悪い気はしない。100円ショップでフレームでも買ってこようかな? 外装の方は美麗な化粧箱で、でも小学校の頃の道具入れをちょっと連想もしてしまう。
本編のリマスターの画質は、一枚物の方と比べると鑑賞の妨げとなっていたフィルムの揺れが徹底して抑えられていることには感心するものの、発色や細かいディティールの描写では明らかに劣っていると思えるようなところもあって、あまり良い印象は受けない。これは余計だったような気がする。単純に揺れを抑えるだけでよかったんじゃないだろうか。
同梱の特典DVD二枚のうち一枚は、「“サヤト・ノヴァ”の記憶」「エロスとタナトス」の二編のドキュメンタリー。どちらもパラジャーノフの映画で助手として働いたレヴォン・グリゴリャンによるもので、「“サヤト・ノヴァ”の記憶」では偶然発見された「ざくろの色」の検閲でカットされた部分のフィルムとともに、同作の成立の経緯について語るといったものでこれだけでも、充分興味深い資料だ。それによると、作品のラストにはイスラム教徒による教会の襲撃のシーンなんていうものもあったらしく、僕個人の印象では「サヤト・ノヴァ」はもう少し説明的な作品だったように感じる。また、「エロスとタナトス」では文字通りパラジャーノフの作品を貫く二つの要素を、それぞれの作品と未公開映像を交えて解説していて説得力がある。
もう一枚のDVDに収録されているのは、同じレヴォン・グリゴリャンによるドキュメンタリーの「地獄に堕ちるオルフェウス」「私はセルゲイ・パラジャーノフ」「タルコフスキーとパラジャーノフ“孤島”」の三本。「地獄に堕ちるオルフェウス」はパラジャーノフが投獄されているときにボールペン一本で描いたとされるイラストやタルコフスキーとの間で交わされた書簡を交えて、当時の彼の状況と心情に迫ると言った内容。「私はセルゲイ・パラジャーノフ」では「スラム砦の伝説」撮影の現場の様子とトビリシの生家の映像を交えながら、創作の秘密に迫る。「タルコフスキーとパラジャーノフ“孤島”」はタイトル通り、両者の表現者としての類似に迫る内容で、いずれも情報の乏しいパラジャーノフについてはものすごく重要だ。
現在「ざくろの色」については、前の一枚物のDVDがすでに絶版になってしまっていて、手っ取り早く本編だけ見たいという人もこのプレミアム・エディションによってしか同作に触れることが出来ないので、少々問題のような気もする。同梱のDVDもファンなら間違いなく即買いの重要な内容を数多く含んでいて、これ単体で充分に作品として流通できると思うので、(本編のリマスターがあまりいただけないものの)バラ売りもした方が良いような気もする。
それにしても「私はセルゲイ・パラジャーノフ」にて映し出される、主を失ったパラジャーノフの生家の寂しいことよ。いつかトビリシ(チフリス)にも行ってみたいと思うけど、外務省の情報に依れば、政情不安などもあってあまりおすすめできない状況らしい。もっともそれ以前に先立つものもない状態なので、どうしようもないわけだけど。いったいいつになったらそんなことができるのやら。